沖縄は変わった、しかし、沖縄は変わらない

トルストイドストエフスキーを読んでから、ロシアが好きに
なりました。訪れたいと思っていたので、今回の訪問は胸が
いっぱいです」

ロシアを訪問していた韓国・文大統領が、プーチン閣下との
会談で言っていた。

何度もプーチン閣下と会談している日本の首相の口からは聞いた
ことのない言葉だわ。あ、そもそもロシア文学を読めるのかって
話もあるな。

『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』(宮川徹志
 岩波書店)読了。

本土の捨て石とされ、沖縄戦では一般市民にも多くの犠牲を出し、
戦後はアメリカの施政下に置かれた沖縄県

アメリカとの沖縄返還交渉に関しては時の総理大臣・佐藤栄作
密使と呼ばれた若泉敬氏が話題になりがちだが、アメリカとの
交渉の実務面で中心的な役割を果たした外交官がいたことを、
本書で知った。

千葉一夫。返還交渉が続けられた時代の、外務省北米一課長だ。
戦中派として軍隊経験があり、呉から広島に落とされた原爆を
見た等の戦争体験が、千葉に熱烈な沖縄への思いを抱かせた
要因ではないかと著者は推測している。

何度も沖縄に足を運び、革新系であった屋良朝苗琉球政府主席と
意見を交換し、「核抜き・本土並み」での祖国復帰の為に奔走
した様子が詳細に描かれている。

千葉ひとりではない。外務省入省の同期生、千葉の部下、彼を取り
巻く人々が、沖縄県の「祖国復帰」に向けて、端から返還する気の
なかったアメリカ側と粘り強い駆け引きを行っている。

だが…と思う。本当に「核抜き・本土並み」の復帰と言えるのだ
ろうか。

「沖縄は変わった、しかし、沖縄は変わらない」。晩年の千葉が、
かつての部下に言った言葉だ。

そう、アメリカの施政下から日本に復帰したとは言え、アメリカ軍
基地の多くは未だ沖縄にあり、米兵による犯罪は後を絶たず、日本
政府は復興予算をちらつかせ沖縄を犠牲にし続けてやしないだろうか。

今も続く沖縄問題を考える一助にもなる作品である。