内気な少女は闘う女性社主になった

『わが人生』(キャサリン・グラハム TBSブリタニカ)読了。

ワシントン・ポスト絡みの映画2本が日本で上演中である。1本は
ザ・シークレットマン」。ウォーターゲート事件の時、ワシントン・
ポストの記者に助言を与えた匿名の情報源「ディープ・スロート」で
あり、FBI副長官だったマーク・フェルトを主役に据えた作品。

そして、もう1本が「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」。
ヴェトナム戦争時の国防総省の機密文書の報道をめぐって、政府
からの圧力を跳ね返し記事の掲載続行を決断した社主キャサリン
グラハムを中心に、権力に歯向かった報道機関の決断と闘いを
描いている。

本書の一部がこの映画の元ネタである。日本での公開に合わせて
該当部分を再編集した作品も出ているらしい。ちなみにペンタゴン
ペーパーズをすっぱ抜いたのはニール・シーハン記者を中心とした
ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストはニューヨーク・
タイムズに掲載禁止の仮処分が出た後に後追いで報道している。

映画が公開されるということで、実家に眠らせていた本書を引っ張り
だしてきたのだが、まぁ、分厚いこと。650ページ超で上下2段組み。
著者の両親の祖父母の時代からの家族史に始まり、著者の歩んで来た
道のりがかなり詳細に綴られている。

父が買収したワシントン・ポストの経営を、伴侶であったフィル・
グラハムが受け継ぎ、フィルの自殺後は父が立て直し、夫が改革を
断行して経営を立て直した新聞社の社主となったのが40代の時。

息子に社主の座を譲るまで、約30年に渡って女性経営者として過ごし
たんだよな。彼女が社主になった時代、アメリカでもまだまだ女性は
子供を産んで家庭を守ることが第一だったんだよな。

そんな時代に男社会の代表とも言える報道機関のトップになり、試行
錯誤しながら会社を運営し、20世紀の終わりごろにはアメリカで最も
注目される女性にもなっている。

著名人や歴代大統領、政府高官の名前が多数出て来て華やかな交流がある
反面、労働争議で組合員がストに突入した時には社主自らが読者からの
苦情電話に対応していたりする。ソフトバンクに苦情電話を入れたら、
孫社長が対応してくれるようなものか。

映画の元となったペンタゴン・ペーパーズの部分の記述は、緊迫感に
欠けるかなという感じだったがどのように描かれているのは気になる
ので、やはり映画を観なきゃいけないかな。

20世紀後半からのアメリカ史ともなっている部分もあったので、読むのに
時間はかかったが面白かった。でも、夫であるフィルの死後、いくつかの
買収を断りキャサリンが必死に守ってきたワシントン・ポスト社だったが、
2013年にamazonのジェブ・ベソスに買収されちゃった。新聞の編集には
口出しをしないようだが。

尚、本書は伝記部門でピュリツァー賞を受賞している。