難民キャンプの少女との20年

マスコミの皆さん、横綱日馬富士貴乃花親方を追っかける
気持ちは分からないでもありません。

でも、その半分でも加計孝太郎さんを追いかけてみてはいかが
でしょうか。

『ヘスースとフランシスコ エル・サルバドル内戦を生き抜いて』
長倉洋海 福音館書店)読了。

既にベテランとなったフォトジャーナリスト・長倉氏だが、彼に
だって勿論、駆け出しの頃があった。フリーランスになりたての
頃に飛び込んだのが、内戦真っただ中の中米エル・サルバドルだ。

アメリカの支援を受けた政府とゲリラ側との戦いは、多くの国内
難民を生んだ。そんな人たちが暮らす難民キャンプで、著者は
子供たちにカメラを向ける。

そのひとりがヘスース。「キリスト」の名を持つ少女は1歳から
難民キャンプで暮らしていた。数年おきにエル・サルバドルを
訪問してた著者とヘスースの、20年に渡る交流を通して内戦の
犠牲になりながらも優しく、逞しく生きる市制の人々の姿を
描いたのが本書だ。

小学生高学年以上向けなのだろうが、大人が読んでも心を動かされる。
ヘスースの成長も勿論だが、著者が以前に写真を撮らせてもらった
子供たちの消息をたずねる場面には切なさもある。

ビリヤード場で出会った美しい少年カルロスは、窃盗で刑務所に収監
された後に亡くなった。著者が食堂で食事をおごった物乞いの少年
ラモスは、成長したのちも物乞いを続けていた。

内戦や戦争の一番の犠牲者は力のない者たちだ。それでも、彼らは
理不尽な環境のなかでも必死に生きようとしている。

ヘスースは17歳で母となり、元少年ゲリラだったフランシスコと
結婚式を挙げ、その式に著者を招待する。そして、花嫁衣装を身に
着けたヘスースのお腹には新しい命が育っていた。

内戦に引き続き大地震に見舞われたエル・サルバドルの様子も描かれて
ているのだが、やはり主眼はヘスースの成長なのだと思う。読んでいる
とこちらがヘスースの親戚になったような錯覚に陥り、彼女の成長に
顔がほころんでくる。

最初の子どもを抱き上げるヘスースの写真が掲載されているのだが、彼女の
笑顔が酷く眩しい。

本書の発行は2002年。あれからヘスースとフランシスコはどうしている
のだろうかと思いを馳せる。難民キャンプで育った少女と、元少年ゲリラ
だったふたりの家庭が、この上なく幸せでありますように。