加害少年は被害者でもあった

日馬富士の傷害事件ですっかり吹っ飛んでしまったが、来年の
夏にロシアで開催されるサッカー・ワールドカップの予選で
イタリアが敗退。

北欧好きとしては対戦相手だったスウェーデンの出場はとっても
嬉しいんだが、イタリアがいないサッカー・ワールドカップって
なんか寂しくないか?

予選敗退は60年振りだそうだ。どうした、イタリア。

『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』
(山寺香 ポプラ社)読了。

同じ埼玉県内の事件だったのでよく覚えている。17歳の少年が金品
目当てに祖父母を殺害した。事件発生当初は「また身内による殺人
か」と思って気にも留めなかった。

だが、事件の背景が報道されるにつれ、少年が送って来た過酷な生活
を知り、「なんでこんなことになったのか」といたたまれない気持ち
になった。

少年はいわゆる居所不明児童だった。両親の離婚、浪費癖があり
経済観念ゼロ、生活能力のない母と生活が徐々に少年を追い詰めて
行く。

学校に通ったのは小学校の5年生まで。その後は一時、生活保護
受けてフリースクールに通うようになるのだが、お金が必要である
にも拘わらず「行政に監視されているようで嫌だ」という母の主張
で用意された簡易宿泊所から突然姿を消してしまう。

母、義父、義父との間に生まれた13歳離れた妹と一緒にホームレスの
日々を送ることもあったし、義父の日雇い仕事を唯一の収入源として
ラブホテルに泊まり続けたこともあった。

生活を立て直す機会は何度かあった。ただ、この母親自体に精神的な
欠陥があったのではないかと思う。生活が困窮しても働こうとする気
は一向にない。一方で、少年に嘘を吐かせて親戚に金の無心をして
いくばくかの現金を手にしてもパチンコやゲームセンターですぐに
使い果たしてしまう。

こんな生活で家族がうまく行くはずもなく、ある日、義父が行方を
くらますと一家の生活は少年一人にのしかかって来た。

少年は完全に母親のコントロール下に置かれていた。そして、少年も
母親を唯一の拠り所としていた。極度の共依存が、悲しい事件の引き金
になったではないだろうか。

事件を起こすまで、少年の周りには救えたはずの人物もいた。どうにか
見つけた勤め先には、少年を一人前にしようと考えていた人もいた。
だが、すべては母親がぶち壊して行った。

本書では少年の生い立ちや事件に至るまでの経過、その後の裁判の様子、
この少年のような体験をしてきた子供たちを、どのようにすれば救う
ことが出来るのかを記されている。

祖父母を殺害した少年の罪は消えない。この点に関しては少年は明らか
に加害者だ。しかし、加害者になる以前、少年はセーフティネットから
こぼれ落ちた被害者でもあったのだ。

「決して(あなたに対する)非難ではないのですが、誰か少年を助け
られなかったのか。こんなになるまで放っておいて。これだけ大人た
ちがそっていて」

一審のさいたま地裁で裁判長が被害者遺族(少年の母の姉)に問うた
言葉が胸に突き刺さる。親としての責任を放棄した母親から少年を
引き離すことが出来ていたら、懲役15年という更なる日々の喪失も
防げたのかもしれない。

願わくばこの少年のような子供が増えませんように。そうして、出所後
の少年が今度こそ、自分の居場所を確保できますように。

尚、少年の供述では祖父母殺害は母親の指示だったそうだが、裁判では
共謀は認められなかった。埼玉県警は共謀で起訴したかったらしい。