アニメ界に変革をもたらした香具師

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(牧村康正+山田哲久
 講談社)読了。

私とアニメ「宇宙戦艦ヤマト」との出会いは遅い。テレビの本放送を
見ていない。何故か。本書を読んで気がついた。同じ時間帯に他局
で放映されていた「アルプスの少女ハイジ」を見ていたからだわ。

劇場版は「新たなる旅立ち」までを観ている。ただ、「機動戦士ガンダム
のように作品自体を愛することが出来なかった。それは死んだはずの
キャラクターを生き返らせてしまったことに起因している。

だから、「宇宙戦艦ヤマト」のことはいつの間にか忘れていた。思い出し
たのは本書で取り上げれている西崎義展が亡くなった時だった。

本書は個人プロデューサーとしての西崎義展の軌跡を関係者の証言を
交えて追っている。

作品作りにかけたこだわりには凄まじいものがある。だから、「宇宙戦艦
ヤマト」は日本のアニメ界を大きく変えたのだろうし、ファンを巻き込んで
の宣伝手法も当時としては斬新であったのだろう。

だが、作品と製作者の人となりはまったくの別物だ。昭和の時代、西崎
のような破天荒な業界関係者はそれなりの数いたであろう。例えば俳優
であり、自身のプロデューサーでもあった勝新太郎のように。

しかし、勝新太郎は「愛すべき役者ばか」だったけれど西崎義展はとこ
とん、好きになれない。独断専行、金と権力を振り回す、数限りない
金銭トラブルと責任の押し付け、複数の女性との関係。

歩くスキャンダルか、この人は。

本書では西崎義展個人にスポットを当てているので、彼が唯一成功させ
た「宇宙戦艦ヤマト」の制作過程を知りたい人には不向きかも。

西崎は「宇宙戦艦ヤマト」以外にも手掛けてはいるのだが、ほとんど
すべてが失敗している。

宇宙戦艦ヤマト」を作った男は、裏を返せば「宇宙戦艦ヤマト」しか
作れなかった男なんじゃないかな。

エピソードてんこ盛りで中だるみせずに最後まで読めるのだが、残念な
のは何故、西崎がとことん「宇宙戦艦ヤマト」に拘ったのかが書かれて
いないこと。本人の死後に出版されているのでその辺りの話は難しい
のかもしれないけれどね。

宇宙戦艦ヤマト」が出来るまでの話も面白かったが、倒産寸前の虫
プロに食い込んで行った話も興味深かった。漫画界の大御所・手塚
治虫も、西崎義展の犠牲者だったのね。