「スクープ」という薬(ヤク)をくれ

え続ける医療費をどうにかしなきゃってことで、誰かがどこかで
考えた。そうだっ!風邪や軽微な怪我は全額自己負担でいいんじゃ
ないか?

そんなニュースをちらっと耳にしたんだが、どういうつもりなんだ?
「風邪は万病のもと」なんだぞ。「風邪くらいで医者にかかるな」って
おかしいだろう。こじらせて肺炎にでもなったらどうするんだ。

きっとこういうのを考える人ってのは十分にお金を持っている人たち
なんだろうな。もっと目線を下げて考えてくれないか?

『ニュース・ジャンキー コカイン中毒よりもっとひどいスクープ中毒』
(ジェイソン・レオポルド 亜紀書房)読了。

2001年、アメリカ・カリフォルニア州で起こった電力危機とエネルギー
企業エンロンによる不正事件。このスクープを放ったのが本書の著者。

発表した記事はしばし賞賛を浴びるが、そこには落とし穴があった。
他メディアからの剽窃疑惑だ。本人は引用元の記載をうっかり忘れた
だけだと主張するが著者の信用は失墜する。

しかし、それだけではなかった。著者が気に病むのは記者の仕事を
失うことに他に、ひた隠しにして来た過去があった。

ハイスクール時代のクレジットカードの窃盗、大学時代のコカイン中毒
と精神病院への入院。これだけならまだしも…なのだ。

音楽業界へ仕事を求めたのはいいが、再度コカイン中毒に陥る。一時
でもコカインなしにはいられない。その代金を賄う為に、会社のサンプル
CDを盗み出し現金に換える。

それでも愛する女性に出会って、まっとうな人生を歩もうとするのだが
結婚する直前に起訴されてしまう。ここまでなら「どうしようもないジャン
キーだな」で終わるのだろう。

だが、後に奥様になるこの女性とご両親が素晴らしい。罪に問われた
著者を突き放すことはせず、弁護士さえも手配してどうにか泥沼から
救おうとしてくれる。

奥様とそのご両親の愛情に応えて著者が更生したかと言えば、少々
違うんだな。確かにコカインからは足を洗った。でも、次に彼を待って
いたのは「スクープ中毒」。

誰よりも早く、誰よりも大きなニュースを。ニュースメディアで働く者なら
誰でも思うことなのだろう。そして、著者はスクープを嗅ぎ付ける才能も
あるのだろう。

自分の両親との関係だとか、繰り返したコカイン中毒からの脱出だとか、
同情出来なくもないんだ。でもね、著者には決定的に不足しているもの
がある。

倫理観だ。大きなネタに食いつくのはいいのだが、十分な裏も取らず、
根回しもせず、原資料を確認せずに原稿を書くから瑕疵が出る。

加えて、自分の非を素直に認めることが出来ない。自身が書いた原稿
の瑕疵を指摘されれば、他のニュースメディアを引き合いに出して「あ
そこもこんな誤報をした。ここもこんな誤報をした」ってさぁ。

それはそれ、これはこれだろうになぁ。

壮絶な過去だとは思うんだ。その過去がいつ暴かれるかびくびくして
いたんだろうなとも思う。でも、著者にまったく好意を持てなかった。

それよりも多くの問題を抱え、何度もの転職を繰り返した著者をずっと
支えてくれている奥様は本当に立派な人なんだなと感じた。

この作品、映画にしたら面白そうだけれどね。