良い子は真似しないで下さい

台湾の地震のテレビ・ニュースで、倒壊した建物が映っていたのだが、
あれ、なんかおかしくないか?

周りの建物はそれほどの被害がないんだよな。以前のクライストチャーチ
地震でも同じような光景を見たことを思い出した。

取り敢えず、建物に閉じ込められている人たちが早めに救助されること
を祈る。

『ゼロからトースターを作ってみた結果』(トーマス・トウェイツ 新潮文庫
読了。

著者のトーマスはイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学院で
デザインを学ぶ大学院生だ。彼が卒業制作の為に選んだのが、「トー
スターを作ること」だった。

まずは家電販売店で大量生産され、値段も手ごろなトースターを購入する。
パンが同時に2枚焼けるポップ・アップ式のトースターだ。日本でもおなじみ
だよね。

そして、分解する。ええ、バラバラに解体してどんな部品が使われてるか
を確認するんですよ。その総数404個。「安いトースターなら部品も少ない
だろう」とトーマスは思ったのだが、この時点で少々頭がクラッとした。
そんなに部品があるのかよ…。

よし。ではホームセンターへ行って必要な部品を買って来ようとはならず
に「原材料を調達するところからやっちゃうんもんね」とのトーマスの発想
に唖然として、一瞬手から本書を落とすところだった。

チャレンジャーのか。はたまた正真正銘の酔狂の人なのか。「デザインを
やっている人はどこかずれている」という私の偏見はイギリスでも通用し
そうだよ。

さぁ、ここからトーマスのトースター作りのなが〜い旅が始まる。鉄鉱石を
取りに行き、文献を調べて道具を工夫し産業革命以前の溶鉱炉を自宅
の裏庭に再現して鉄を取り出そうとする。

この溶鉱炉は失敗に終わるんだが、代わりに電子レンジで鉄鉱石から
鉄を取り出しちゃう。マジか、トーマス。でも、ママも電子レンジを壊し
ちゃダメよ。

プラスチックの原料は原油。なので、イギリスのエネルギー関連企業に
電話して「バケツ1杯分の原油を取りに行かせて下さい」と電話して、
「は?原油は取り扱いが難しんだぞ。しかもバケツだなんて…。お断り
だ」と言われてもめげない。

じゃあ、捨てられているプラスチックを再生すればいいじゃんと本当に
再生プラスチックを作っちゃうし、形成に必要な型枠は木を彫って
完成させちゃう。

その前に、でんぷんからプラスチックが作れるらしいからとじゃがいもから
作ろうとして失敗しているんだけどね。食べ物を無駄してはいけませんよ、
トーマス。

他にもマイカ採取の旅、ミネラルウォーターから銅を抽出する挑戦が続き
最も難しいと思われたのがニッケル入手。しかし、当初自身が設定した
ルールを変更して結構簡単に手に入れることが出来た。カナダの記念
硬貨が高純度のニッケル製だからって溶かしちゃっているんだけど、
これ、カナダ国内だったら犯罪のようだ。あ、イギリスでやったからいい
というもんじゃないか。

能天気というか、無謀というか。でも、最後には採取した原材料から不格好
ではあるものの、トースターらしきものが組み上がってしまうのが凄い。

トースター作りにかかった期間は9カ月、必要経費は1187.54ポンド、日本
円にしたら約15万円。あぁ…安価なトースターが一体いくつ買える金額
なのだろう。

家電量販店の棚に並ぶ安価なトースター。でも、私たちはそのトースター
にどんな材料が使われていていて、その材料がどんな場所で採取され
ているか知らない。しかも、電化製品の作り方なんて考えもせずに少々
不具合が出ただけで新しい製品に買い替える。

本書はトーマスの笑いを伴う悪戦苦闘を伝えるだけではなく、「使い捨て
文化」をもう一度考え直すきっかけをも与えてくれそうだ。

尚、著者のトーマスはこの後、「人間でいるのを休みたい」と、ヤギになって
9カ月を過ごし、イギリス本国ではこの体験記が出版されるようだ。こっち
も日本語訳を出してくれないかなぁ。

それにしてもトーマス、やっぱり変人なのか?