賞賛からスキャンダルへ

「おまっとさんでした」。キンキンこと、愛川欽也が亡くなった。
80歳かぁ。そうだよな、子供の頃からテレビで観ていた人だ
もの。

ご冥福を祈る。合掌。

『捏造の科学者 STAP細胞事件』(毎日新聞科学環境部・須田
桃子 文藝春秋)読了。

研究の中心にいたのが若き(?)女性でなかったら、この事件は
ここまで大問題になったのだろうか。

2014年1月29日、大きな衝撃を持って発表されたSTAP細胞
iPS細胞を凌ぐ万能細胞は華々しく登場したのはよかったが、
疑義が提示されるのも早かった。

ネットや週刊誌では瑕疵のある論文そのものではなく、女性研究者
の人となりを非難するような論調が目立った。そんなことが続くうち、
食傷気味となり、時折、新聞に掲載される記事に目を通すだけに
なった。

本書は毎日新聞の科学記者としてSTAP細胞の発表を驚きを持って
報道した著者が、時系列で事件の経緯を追っている。

凄い、素晴らしい。実用出来たら夢のようだ。科学記者としての
そんな思いがあったからこそ、次々に浮上する疑義に「裏切られ
た」との思いが膨れ上がったのだろう。

それでもある時期までは著者もSTAP細胞の存在を信じていた。
しかし、後手後手に回る理研の対応、メールでのやり取りの中で
感じた笹井氏の危機感のなさ。それを綴る著者の筆からはもどか
しい思いが伝わって来る。

誰が悪いのか。その判断はされていない。ただ思うのだ。研究の
中心となり、大学時代の博士論文にも不正が発見された女性研究
者は、研究者になってはいけないタイプの人ではなかったのだろう
か…と。

画像や文章の盗用を「やってはいけないものだと思わなかった」と
いう発言だけでも認識がおかしくはないだろうか。

「こんなものがあったらいいな」。そんな思い込みから自己暗示に
かかってしまい、本来、研究者としてはやってはいけないことを
してしまったのかなぁ。

科学誌に掲載された論文の瑕疵を見つける機会は何度かあった
ようだ。それでも見逃されてしまったのは、論文の共著者に世界の
科学界で信用を得ている研究者の名があったからかもな。

STAP細胞問題は、笹井氏の自死、女性研究者の理研退職で
幕が引かれた。だが、これでいいのだろうか。

何故、多くの瑕疵のある論文が見逃されたのか。その点は解明
されてはいない。

本書は2014年11月の発行なので「STAP細胞ES細胞だった」との
結論には触れていない。それでも科学の知識のない私でも事件の
推移を追うには読みやすかった。

しかも、買って積んでおいたら大宅壮一ノンフィクション賞を受賞して
た。

尚、本書の読みどころは亡くなった笹井氏とのメールのやり取り。
これは貴重なのじゃないかな。

でもな、女性研究者がES細胞をいつ・どこで混入させたって証拠
もないんだよな。一体、STAP細胞ってなんだったんだろう。本当に
あったらよかったのに。