大義なき戦争がもたらしたもの

取り敢えず、読書記録。

ベトナム戦争アメリカ ─もう一つのアメリカ史─』
(白井洋子 刀水社)読了。

ヴェトナム戦争はメディアが大いなる自由を与えられた戦争
だった。軍事顧問団として参戦した米軍の力が及ぶ地域なら、
希望すればどこへでも取材には入れた。

だから、従軍記者として現地を取材した記者・ジャーナリスト
たちが残した作品が多くある。その取材の自由がアメリカ政府
の首を絞めることになったのだが。

本書は戦争当時、直接現地を取材した手になる作品ではなく、
アメリカ先住民研究の専門家によるもの。

著者はインディアン虐殺の延長にヴェトナム戦争を置き、
アングロサクソンのなかにある根本的な人種差別
という視点からヴェトナム戦争を分析している。

これはうすうす感じていたんだよね。だって、アングロサクソン
にとっては自分たちと同じ価値観を持たぬ者は「文明を持たぬ
野蛮人」なのだもの。

アメリカ先住民と白人との闘いを描いた『わが魂を聖地に埋めよ』
(ディー・ブラウン 思草社)でも、戦闘員ではない先住民の
女性や老人、子供を容赦なく殺戮した場面があったが、同じこと
はヴェトナムでも行われていた。

そうして、ヴェトナムでの民間人虐殺や先の見えない戦闘で
心を壊されたヴェトナム帰還兵にも章を割いている。

これが辛い。「国の為にヴェトナムへ行って、ヴェトコンを
殺して来い」と言われて送り出されたのに、帰還した祖国は
彼らを戦争の英雄として歓迎するどころか「虐殺者」として
冷たい視線を送る。

何度も書いているが、戦争に良いも悪いもない。しかし、
実際に戦闘に駆り出された兵士にとってはそこへ行って
戦う意義の見出せない戦争はあると思うのだ。

平均年齢19歳とという、ヴェトナム戦争時の末端の兵士
たちにとってこの戦争の目的さえも分からなかったのでは
ないだろうか。

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(アレン・
ネルソン 講談社文庫)の著者のように、ヴェトナムでの
体験を語ることで戦争の不毛を訴えた帰還兵もいた。

ヴェトナム戦争は戦地となったヴェトナムの人々だけでは
なく、アメリカ兵たちにも悪夢の戦争だったんだよね。