あの事故の検証はまだ終わっていない

グルメ。『大辞林』によれば、食通・美食家の意。私もそう
思っていた。

先日、旦那がつけっぱなしにしていてたテレビから「グルメ通」
なる言葉が聞こえて来た。

ニュース以外は音声が聞こえていても気にしないのだが、これは
引っ掛かった。聞いていて気持ち悪じゃないか。「食通」通って
なんだよ。

日本語はこうして壊れて行くのか。シクシク…。

福島第一原発事故 7つの謎』(NHKスペシャル『メルト
ダウン』取材班 講談社現代新書)読了。

今年の3月11日が来ると、東日本大震災福島第一原発の事故の
発生から4年目となる。民放は3月11日が近くなると特番を組む
が、あの原発事故を長期に渡って丹念に追っているのはNKH
くらいだろうか。

NHKスペシャルは時間が許せば見ているが、見逃している回数
の方が多い。なので、本書のような書籍版はなるべく購入して
読むようにしている。

本書は未だ多くの謎に包まれている福島第一原発事故について、
関係者や研究者に取材し、7つの謎について解明しようとしている。

1.1号機の非常用冷却装置が津波直後から動いていないことに
  なぜ、気が付かなかったのか。
2.メルトダウンした1号機のベントが遅れたのはなぜか。
3.「ベントが成功したのか、今でもわからない」。政府事
  故調での吉田元所長の発言から1号機のベントを徹底
  検証する。
4.水素爆発しなかった2号機が、なぜ、大量の放射性物質
  放出するに至ったのか。
5.3号機では消防車での注水が行われたのに、なぜ、メルト
  ダウンが起こったのか。
6.2号機のSR弁と呼ばれる減圧装置はなぜ、動かなかった
  のか。
7.ロボットカメラ等によって調査が始まった原発内部の
  調査結果から、事故原因を検証する。

それぞれの章が独立しているので、興味のある部分だけを読む
のもありかもしれない。個人的に興味深かったのは2章と3章。

福島第一原発は建設直後を除けば、ベントを行ったことがない。
本書ではアメリカの原子力発電所で点検の為にベントが行われ
ていることを例に取り、ベントが行われるとどのような状況に
なるのかを解説してる。

1号機のベントに関しては官邸が大騒ぎしてたのが記憶に鮮明に
焼き付いている。あ、官邸が大騒ぎしていたのはベントだけじゃ
ないけど。

いざ、ベントを行うとなっても実際に行った際の状況って
ベテランの運転員や東電社員も観たことがなかったんだね。
これにはびっくりした。そりゃ、本店にも声を荒げる吉田
元所長だって「成功した」とは言えないはずだわ。

そして、謎をひも解く7章のほかに、事故当時、東京電力
原子力部門の最高責任者であり副社長であった武藤栄氏へ
行ったインタビューからまとめられた「特別篇」がある。

菅直人が周りの止めるのも聞かずに福島第一原発を視察した
際に現地で出迎え、散々、罵声を浴びせられたお気の毒な人
くらいの認識しかなかった。

この武藤氏が原子炉の冷却の為、吉田元所長に電源復旧を
急ぐよう助言していた。だが、それも当時の海江田経産相
の「警視庁、自衛隊、消防で注水する」という横やりで
延び延びになったなんて初めて知ったよ。

素人目にも効果があるのか疑問だった自衛隊の空からの
散水。経産相の横やり。事故の被害を食い止める為の
ものではなく、海外に対する単なるデモンストレーション
じゃねぇか。

この「特別篇」を読むだけでも価値あり。というか、これを
書きたかったんじゃないかと思わせる。

番組で使用された原子炉のCGなども掲載されており、非常に
分かり易く書かれている。どうして、あの事故は起こったのか。
その検証も大事だが、未来に活かすための検証でもある。