夢とロマンと絶望の大地

池上彰氏が司会を務めているテレビ番組を観ている。「嶋中事件」か。
私の恩師のひとりは、この時の「中央公論」編集部に在籍していた
のだよな。

『命がけで南極に住んでみた』(ゲイブリエル・ウォーカー
柏書房)読了。

原住民が存在するには、その環境はあまりにも過酷だ。常に
氷点下の気温。強烈なブリザードホワイトアウト

人を拒み続ける大地だからこそ、人々は惹きつけられるのかも
しれない。アムンセン隊とスコット隊の南極点到達競争もそう
だし、日本人では白瀬少尉の南極探検がある。

その南極に長期滞在した女性ノンフィクション・ライターによる
南極レポートが本書だ。

この書名を念頭に置いて読むと「?」となる。何故なら原書の
タイトルを直訳すると「南極 親密なる肖像画ポートレート)」
となると「訳者あとがき」に記されている。

確かに訳者が勝手に(?)つけた書名の方が「読んでみよう」と
感じさせるだろう。かく言う私がそうだった。だが、やはり原題
の方がしっくりくる内容なのだ。

どこの国の領土でもなく、軍事利用も禁止されている酷寒の
大陸は人間の居住には適さないけれど、一度訪れたらその
未知の世界に魅了される。

ペンギンの観察ひとつを取ってもそう。ペンギンは人間を
「大きなペンギン」と認識しているそうだ。自分の進路の
邪魔になると、ペチッと叩かれるらしい。

もう、この話だけで南極へ行きたくなるのだが、そこで
ふと思い留まる。観光で行ける場所でもあるけれど、やはり
研究者や観察者以外が踏み込んではいけない場所なのじゃ
ないかとも思うのだ。

南極を研究すれば火星のことが分かるかもしれないという
研究者も登場する。乾燥した大地は、火星の環境に似て
いるのだそうだ。

人間が定住出来ない環境もあるのだが、未知の生物も
うじゃうじゃといる。

そんな極限の地は地球の歴史を探るデータの宝庫でもある。
気候の変動や地球の辿って来た道が、長い長い研究の末、
解明されることがあるのかな。

日本版の書名こそいただけないが、内容は濃密。南極の
魅力たっぷり。しかし、住環境に魅力はないんだけどね。

巻末には簡略南極年表もある。ところどころにイラストが
掲載されているのだが、出来ればカラー口絵で写真が欲しい
ところだった。