ホワイトアウト

スキーウエアを着た娘に自分の薄いジャケットを着せ掛け、
猛烈な暴風雪から護るように腕に抱いたまま父は息絶えた。

駄目だ。朝から新聞でこんな記事を読んだ日には、1日中、
ふとした瞬間に思い出して泣きそうになる。

北海道を襲った暴風雪は9人の命を奪った。なんとも…言葉が
ない。寒かったろうに。怖かったろうに。

さらさらとした北海道の雪は強い風で地表から舞い上がり、
人の視界を奪うホワイトアウトを引き越す。

雪に埋もれて発見された父娘も、視界を奪われ自宅近くで
迷った女性も、あと数百メートル進めば暖の取れる場所に
辿りつけるはずだった。それなのに…。

自然の猛威はもうたくさんだ。哀しくやり切れない不幸は、
どこかへ行っておくれ。

原発難民 放射能雲の下で何が起きたのか』(烏賀陽弘道
 PHP新書)を読み始める。

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故。
放射能という見えない危険物質の為に、故郷を奪われた人たち
の証言を基にしたルポルタージュである。

「ここを『死の町』といった鉢呂(吉男。当時、経済産業大臣)さんが
クビになりましたね。彼をクビにした人は、一度見にきたらどうで
しょうね。これが死の町でなくて何なんですか」

立ち入り禁止ゾーン内に一時帰宅した住民の言葉である。