暴君への限りない愛

女子柔道の暴行・パワハラ事件で、やっとこの人が表に出て来た。
「女三四郎」と言われた山口香さんだ。

選手たちの背中を押したんだね。山口さんが柔道連盟にいれば
また違ったかもしれないよな。

男社会の柔道連盟。女子選手がいるのだから、女性指導者が
いてもいいんじゃないか。

『談志が死んだ』(立川談志楼 新潮社)読了。

いきなり談志の死から始まる。落語立川流家元・立川談志の死に
ついては家族と、最期まで談志の世話をしたひとりの弟子以外には
他言されなかった。

著者をはじめとした一門の弟子たちに訃報が届いたのは密葬が
済んでからだった。

本書は師匠である談志の死を軸に、著者の思いが過去と現在を
行き来して自身と談志との関係、一門のこと、落語界のあれこれを
綴りながら、最後には師匠への「愛」へ終結して行く。

談志が落語協会と袂を分かったことは知っていたが、詳しい経緯
までは知らなかった。そうか、自分の弟子が真打昇進試験に落
とされたことに憤激したのか。

本職の落語以外でも漫談などもこなし、「天才」と呼ばれた落語界の
風雲児も病には勝てなかった。

喉頭がんは、噺家の命である声を談志から奪った。病は、体だけを
蝕んだのではなかった。心までも狂わせた。

弟弟子の著作の書評を書いた著者に、談志は突然破門を言い渡し、
一門解散を告げる。まぁ、後に撤回されるのだが。

常軌を逸した師匠の言動に振り回される著者の姿にはらはらする
一方、病んで老いた談志に哀しみを覚えた。

「オレが死んだら悪口だけで三時間はもつはずだ。笑って送って
みせろ」

談志の言葉通り、残された弟子たちは集まるごとに師匠のエピソード
で盛り上がる。まるで汲めども尽きぬ泉のように。

本職の作家では書けぬ、師匠・談志を描いて愛情あふれた1冊である。