返事の来ない手紙

ヒトラーに愛された女 真実のエヴァ・ブラウン』(ハイケ・B・ゲルテ
マーカー 東京創元社)読了。

ねぇ、エヴァ。あなたが後に「総統」と呼ばれるあの男と出会ったのは
17歳の時だったわね。あの男がどんな地位にいるかも知らず、一緒に
食事をしたのよね。

ねぇ、エヴァ。あなたはいつから23歳も年上のあの男に惹かれるように
なったの?

ねぇ、エヴァ。あなたに出会う前、あの男の心に別の女性が棲んでいた
ことを知っていた?2度の自殺未遂は、心を繋ぎとめる手段だったの?

ねぇ、エヴァ。あの男が「第三帝国」の夢想を叶えようとする為に、長い
間会うことが出来なくて寂しくなかった?

ねぇ、エヴァ。あの男の取り巻きとその夫人たちだけに囲まれた生活は
窮屈ではなかった?その中にあなたが本当に心を許した人はいた?

ねぇ、エヴァ。「愛人」と黙認され、ずっと公の場に出ることも叶わなかった
生活は辛くなかった?「この人が愛しているのは私なのよ」って宣言した
くはなかった?

ねぇ、エヴァ。夢想が崩れて行くなかで、あの男が心を病んで行く様を
傍で見ているのは平気だったの?それとも、あなたはそんなあの男を
慰める為にそこにいたの?

ねぇ、エヴァ。死を前にしての結婚は嬉しかった?やっと望みが叶った
のかしら?

ねぇ、エヴァ。青酸カリのカプセルを噛み砕く時、躊躇はなかったの?
あなたは愛する男を待つ為に、ひと足早く死出の旅に出たのね。

ねぇ、エヴァ。あなたはあの男、世界中が怪物と呼んだ男と一緒に
死ぬことであなただけのものにしたの?

ねぇ、エヴァ。あの男があなたからの手紙を焼いてしまったことが残念
だわ。残っていたのならもう少しあなたのことが分かったのに。

ねぇ、エヴァ。あの戦争の勝者は、ルーズベルトでも、チャーチルでも、
スターリンでもなく、あなただったのかもしれない。

ねぇ、エヴァ。どんなに聞いてもあなたは答えてくれないのよね。
今あなたがいる場所に、あの男も一緒にいるのかしら。そして、
歴史が伝えるのとは違った「人間・ヒトラー」の面をあなたにだけ
向けているのからしら。

ねぇ、エヴァ。あなたはただ無邪気な凡庸な娘ではなかったわよね。
でも、もう本当のあなたを知る術がないのよ。

だから、私はこの本を読んでみたの。それでも、あなたの真実の姿は
なかなか見つけることが出来なかったわ。陰の女だったあなたは、
こうして自分に日が当たることがあるなんて想像したかしら。

ねぇ、エヴァ。あの男と過ごした13年間は幸せだった?ねぇ、「幸せ
だったわよ」って答えてよ。