誰が殺した

NHKスペシャル原発事故 100時間の証言」を観た。地震津波だけ
でも大きな被害であったのに、追い打ちをかけるように福島第一原発
の事故が襲って来た。

命を守ろうとした人たちがその時を振り返り証言をしていたのだが、
切なくてたまらない。そして、救えたはずの命がみすみす失われて
行った現実があった。

原発事故に対する避難は混乱を極めた。正確な情報がないばかりか、
退避地域に指定された自治体の長でさえテレビの記者会見でそれを
知る始末。

当時の政府中枢にいた人間のインタビューに呆れた。退避区域を30kmに
指定したら渋滞が発生するからしなかったって何?放射能拡散予測さえ
公表しなかったことも原因で、拡散方向へ避難した人たちもいたのだぞ。

そして、避難中に亡くなった人も多くいた。双葉厚生病院の看護師の方は
悔しさを滲ませて言う。

「もっと違う避難の仕方があったと思う」

医療器具・薬品も満足にない状態で、高齢者の方が衰弱し亡くなった。

「助けに来るぞ」。生存者の救助にあたった消防団員は、瓦礫のなかから
聞こえる声に応えた。しかし、翌朝には原発事故により退避命令が出る。
人の声がした場所からは、その後、仲間であった消防団員の遺体が
発見された。

「私も含め、これまでの政府に責任がある」

菅直人が言っていた。ならば国会議員総懺悔か。誰か懺悔した議員はいた
のか。救えたはずの命を、誰が殺したのか。考えてくれ。

『電力と国家』(佐高信 集英社新書)読了。

電力が自由化だった時代が日本にもあった。戦前、民間の電力会社が
熾烈な競争を繰り広げていた。それが国家により統制されていくことに
強行に抵抗し「電力の鬼」と呼ばれた男がいた。松永安左エ門

偏屈で頑固で、大の役人嫌い。「官吏は人間のクズである」「役人に
電力会社を運営できるわけがない」。もうこれだけでしびれさせて
くれる人である。

本書は戦時の国家統制に電力会社が飲み込まれて行く時代から
戦後に民の手に電力が戻るまでを松永の国家との闘いを中心に
描いている。

「電力で日本を豊かにしたい」。GHQどころか日本中を敵に回してまで、
松永が成し遂げた電力の民営化だったが、いつのまにか電力各社は
役所よりも役所らしい企業になり下がった。

そして、松永があれほど嫌った政治主導の元、原子力発電という怪物
を作り上げた。

「生きているうちこそ鬼と云われても
仏となりてのちに返さん」

国がくれるという勲章を頑なに拒み続けた松永は、今の電力各社を
どのように見ているのだろうか。