歴史と文化を破壊するな

アルカイダから古文書を守った図書館員』(ジョシュア・ハマー
 紀伊国屋書店)読了。

イスラム教というのは本来、寛容で豊かな文化を生み出す土壌の
ある宗教なのだと思っている。しかし、いわゆるイスラム過激派
と呼称される集団には寛容な思想などなく、異なる宗教の文化遺産
や知的財産を目の敵にし、破壊の限りを尽くす。

バーミヤンの仏像は爆破された。バビロンの遺跡、モスル博物館も
モスル大学図書館も被害に遭った。

本書は西アフリカに位置するマリ共和国で、世界遺産都市トンブクトゥ
を占拠した「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」から、代々受け継が
れてきた古文書を守った男の話である。

マリと言えばその昔のマリ帝国の頃。マンサ・ムーサ王が巡礼の際に
金の延べ棒を配りまくって、一時、金相場が暴落した話が好き。さす
が史上最高のお金持ちである。

知的遺産を、文化を守ろうとするのに地域も宗教も関係ないんだよな。
特に古文書なんて、焚書にされてしまったら同じものを入手できる
可能性は非常に少ないのだもの。

古文書をいかに守るかの過程にもハラハラしたが、マリがいかにして
「古の学術都市」になったか、各家庭や部族が隠し、保存し続けて来た
古文書を研究の為にどのように集約したかも興味深いし、イスラム過激
派の容赦ない残忍さも克明に描かれている。

残念ながら守り切れなかった古文書もある。イスラム過激派はトンブク
トゥから撤退するのに際し、最後っ屁のように約4000冊の古文書を灰
にしている。

それでも37万冊以上の古文書は避難大作戦の途中で損傷や紛失すること
もなく、アルカイダの魔の手から逃れた。

そこには古文書に魅せられたひとりの人間の必死の思いがあったし、
それに応えて資金提供をした各国の財団の協力もあった。

尚、このマリの古文書の修復には日本の紙が使用されているそうだ。
遠い、遠い西アフリカと日本にこんな縁があるなんて知らなかった。

貴重な図書を焚書にするばかりか、聖廟やモスクまで破壊するイスラム
過激派には本当に腹が立つわ。寛容であってこそ、イスラムじゃないの
かしらね。