孤独だけれど至福の時間

収監43年。名張毒ぶどう酒事件の奥西勝死刑囚が肺炎の為に
八王子医療刑務所で亡くなった。89年の生涯の半分近くを獄中
で過ごしたことになる。

自白は強要されたものだったと冤罪を主張し続け、再審請求を
繰り返し、第9次再審請求中だった。

無念であったろう。ご冥福を祈る。合掌。

『読む時間 ON READING』(アンドレ・ケルテス 創元社)読了。

ハンガリーで生まれ、パリを活動拠点にし、1985年に亡くなった
写真家アンドレ・ケルテス。有名なのは歪んだヌード写真かな。

本書はそのアンドレ・ケルテスの写真集である。それも「読む」を
テーマにして撮影された写真集だ。

やっと新装版が出たことを長らく知らず、先日、やっと入手した。
洋書専門の古書店で初版を探していたのだけれど、なかなか
出回ってなかった。

撮影期間は1915年から1970年まで。人はいろんな場所で、いろんな
物を読む。本であるとは限らない。新聞であったり、メモであったり、
書類であったり。

本が山積みされた広い書斎、街角のカフェ、ベンチ、ベランダ、屋上。
歩きながら読む人だっている。

何かを読む。それはとても孤独な作業だけれど、至福の時でもある
のじゃないかな。休日にゴロゴロしながら本を読んで、疲れたら
うたた寝ってすっごく幸せだもの。

今なら本や新聞を読む人よりも、携帯型端末の画面を見ている人の
方が圧倒的に多いのだろうな。これは私の偏見なんだけれど、「読む」
と言えばやっぱり紙媒体を読んでいる姿の方が被写体として考えて
も絵になると思うのだ。

さて、本書。本当に様々な場所で、様々な物を読んでいる人の姿が
ずっと続く。モノクロで撮られた作品の美しさにうっとりとする。

冒頭に掲載された谷川俊太郎氏の詩「詠むこと」がまたいい。永久
保存版の一冊だ。