スパイのレッテルの貼られた男の帰還

既に発言を撤回したようだが、櫻田五輪担当大臣は8年前の
3月11日以降は日本国内にいなかったのかしらね。

「国道や東北自動車道が健全に動いたからよかった」って
捏造?うわ言?妄言?

で、撤回しておいて「地元の会合で言っただけ」と意味不明な
言い訳までしている。馬鹿なの?

『父・伊藤律──ある華族の「戦後」』(伊藤淳 講談社
読了。

戦中・戦前の日本共産党の重要人物でありながら、ゾルゲ事件
逮捕・処刑されたリヒャルト・ゾルゲと尾崎秀実の逮捕の端緒を
つくったとされた伊藤律

「生きているユダ」「革命を売る男」のレッテルを貼られ、日本
共産党からは公に死亡説が流された。

幼い頃のおぼろげな記憶の中で、突然行方をくらませた父。
その父・伊藤律が中国で生きていた。伊藤律の次男である著者が、
30年ぶりの父の帰国、父不在の期間の家族の生活、父を信じ、
著者と兄を支え続けた母に対する思いを綴ったのが本書だ。

編集部のアドバイスを受けて書かれたのだろうが、構成・文章共に
上手く、テンポよく読み進められた。

伊藤律帰国にあたっての日本共産党の対応はとことん酷い。父の帰国
に際し、真っ先に党に相談しようとした著者だが母の助言を受け入れ
中国大使館に足を運んだことが幸いした。

党から死んだと言われていた父が生きて中国の病院にいる。生きて
いることだけで家族にとっては奇跡のような出来事だろう。なのに
日本共産党は著者の母親の自宅まで乗り込んで家族を恫喝する。

しかも最高幹部である野坂参三のご登場である。野坂達、当時の
執行部にとっては相当に伊藤律の帰国は都合が悪かったのだろうと
想像がつく。党は伊藤律に「スパイ」のレッテルを貼ったのに、
後に野坂参三こそがスパイだったと判明したのだから。

日本共産党の非人道的な対応も印象深いが、著者の母であり伊藤律
の妻であるキミさんの芯の強さに脱帽する。自分自身も共産党員で
あり、律出奔後も離婚することなく家族の生活を守り、律帰国に
際しての党の恫喝にも動じなかった人だ。

30年振りの帰国を果たした伊藤律は9年を家族と共に過ごし、彼岸
へと旅立った。その間、家族は律に振り回されることも度々だったが、
人生の最後だけでも家族の元に帰ることが出来て本当に良かったと
感じた。

尚、律の死後になるがゾルゲ事件の研究も進み、伊藤律スパイ説は
既に覆されている。名誉回復がなされたことは喜ばしいが、日本共産
党が家族に謝罪したとは寡聞にして知らない。