折り合いなんてつけられない

「日本人として誇りに思う」。大隈先生のノーベル医学・生理学賞受賞
を受けての安倍晋三のコメント。

だったら、防衛省が要求している軍事研究助成費110億円の予算を
突っぱねて、基礎研究の助成に回したらどうだろうね。(-_-;)

『ロングウォーク 爆発物処理班のイラク戦争とその後』 (ブライアン・
キャストナー 河出書房新社)読了。

戦争から戻って来た兵士たちは、戦場体験と平時の日常生活の
ギャップをどうやって埋めているのだろうかと思う。

幸いにして私は戦争体験はない。書籍や映画、ドキュメンタリー番組
で知るだけだ。それでも戦場の過酷さは伝わって来る。

『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房)は
心的外傷後ストレス障害を抱えて生きて行く元兵士たちを取り上げた
ノンフィクションだった。

本書も同じ系列に属するのだろう。著者はイラク戦争時にイラク・キル
クークを中心に爆発物処理班の兵士として派兵された。物語は現地
での様子と、帰国後に襲った狂気の中での日常が交互に織り込まれて
いる。

他国への軍事介入が何を引き起こしているのかを理解するにもいい。
どれだけ爆発物の処理をしてもイラク人から感謝されることがないど
ころか、憎しみや反感を増加させるだけなのだもの。

それは最前線にいる兵士のせいではなく、安全なところにいて指揮を
執っている最高責任者の政治的判断のせいなのだけれどね。

無限とも感じられるほどに仕掛けられた爆発物。規制線の向こう側から
現場を取り囲む群衆の中に自爆犯がいるのではないかと神経を尖らせ
る日々。平常心を保てという方が無理であろう。著者も現場でイラク
少年に対し、ライフルの照準を合わせた経験を綴っている。引き金を
引くことはなかったが。

「戦争に行った男はみんな死ぬのよ、死にかたはいろいろだけどね。
あっちで死んでくれたほうが、いっそあんたのためには幸せだよ。
生きて戻ってきたら、わが家で戦争に殺されるんだからね。あんたも
道連れにして」

著者のイラク派兵が決まった時、奥様がおばあ様に相談した時の、
おばあ様の言葉だ。

現実は正にこのおばあ様の言葉通りだった。アメリカへの帰国後2年
して、著者は徐々に狂気に囚われて行く。心的外傷後ストレス障害
加え、爆風による外傷性脳損傷と診断される。そして、家庭は崩壊
に向かう。

戦争は、それに関わった人々の人生を狂わせる。戦死ではなくとも
兵士たちの心を殺す。その兵士たちの家族さえ、心を殺されるのだ。

仲間を、心を、家族を。いろいろなものを失った著者の哀しみと怒り
が凝縮された作品だった。